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2014年11月29日

僕の時間 1



夢の始まり

駐車場に一台の車が入ってくる
少し古いがそれなりに手を入れた感じのするトラックだ
ゆっくりとメインの通路を抜けいくつものブロックに分かれた
中ほどに向かう

このモールにはすべてのものがそろっている
朝食にくつろげるテラス席から
ランチにもありがたいフードコート
夜はレストランからパブまである

それも数軒があちこちにあり
ひとつの街のような風景なのだ

その町を取り囲み食い込むように
駐車場がいくつも点在する

僕がいたのはモールの真ん中あたり
いろいろなショップが周りを取り囲み
その一角にハンバーガーショップやカフェ
そして映画館のあるエリアだ

そこから大きな広場を抜けると歩道と
いろいろな樹木で区切られたパーキングがあるのだ

彼はそこにやってきた

To be continued .




  

Posted by びらーだ at 21:40
Comments(0)僕の時間

2014年11月30日

僕の時間 2




僕がここにいるのは
彼が呼び出したからだ
「おい 暇か?」
「それなりに」
そこで何を思ったか彼はここを指定した

街の端にあるこのモールの周りは
荒野や砂漠が続く
何本かのフリーウエイの高架が
空に刺さる弓矢のように伸びている

カルバードライブのインターから
それこそ五分で突然現れるこのマチ
そこから少し海に向かって走ると高級住宅街だ

僕はスタンダードなピックアップで駐車場の端に停めたのに
彼はあんな大きなトラックで堂々と中まで入りこんできたのだった

パームツリーの植え込みが整然と並んでいる
その周りには芝がびっしりと茂っていて
時折 自動でスプリンクラーが作動する

乾いた風はそれらにプレッシャーをかけることなく
軽く軽く吹いている

「元気だったかい?」
「ああ お前はどう?」

「ま それなりさ」

彼のそれなりはきっと良くない
普通の時はサイコーだって騒ぐし
いい時などは連絡もなしに家へやってきて
僕をあの大きなトラックに乗せ
3ブロックほど先にあるメキシカンレストランで
昼間からテカテを思いっきりあおるのだ

そして昼下がり
バンドマンたちがディナータイムの準備を始めると
早く始めてくれと 大きな声でせがむのだった

もちろんそんな遅くまでいない
さっきまでのリクエストなんかすぐ忘れて
近くのプールバーへ行こうとするのだ

もちろんハンドルは僕が握る
調子のいい時の彼はあぶなっかしい奴だ

きょうは調子よくなさそうだな
僕は少し気づいていた

クールなふりをして
マルボロのミディアムを下を向いてくわえる

「腹減ったな」
「そうだね 何か食べようか」

彼と僕は目の前のバーガーショップへ行った
男二人でいくんだから こういうとこのほうがいい
へたにレストランなんかにいくと
怪しい関係のような目で見られるから

彼はオニオンをレアにして
ピクルスをたくさん乗せるようオーダーする
いつもの好みだ
変わってる

僕はすべてミディアム
彼はそれがおもしろくないようで
「お前はいつもママに頼んで買ってきてもらうんだろ?」
とからかうのだ

僕らは大きな紙袋を持って
広場の真ん中あたりにあるテーブルの並ぶなかのひとつに座った

相変わらず風は軽く軽く吹いている
日差しはまもなく傾き始めるから
少し寒くなる
でも今日はいい気持ちの日だ

人は絶対たくさんいるのだが
あまりに広いこのモールでは
密集度は低く それほど騒がしくもない

僕らは最近のそれぞれの出来事を
何気なく話した
仕事は最近暇になってきている
違う仕事なのだがこのところの不景気は
お互いに影響していることもわかった

そんなことを話しながら
コーラも半分以上のんだころ
彼がふとつぶやいた

「この前とても不思議なことがあったんだ」
「なに 未来の啓示でもあったのかい?」
「そんなんじゃないさ 実はな」
彼は急に低い声になり
周りをチラッと見まわした

「最近 誰かが俺のことを見ているような気がするんだ」
「おい 悪いことしたんだろ?」
「そうじゃない いつもじゃないんだけどな
うちの周りにその形跡があった」
「ふ~ん それはどんな人?」
「お前 それがわかったらお前になんかいわないよ」
「まあ そうだけど 誰かも分からない人が どうして
見ているってわかるの?それは男?女?」
「それが女なんだ」
彼は先日の話しをし始めた

それによると
彼が仕事を終えて家に戻ると
ガレージの前に鉢植えが置いてあった
彼はたぶん誰かが隣の家と間違えてるんだろうと
思い
隣人に尋ねたが誰も知らないという

そしてまた数日後 鉢植えが置いてあった
気の毒に思った彼はガレージの前に
「きれいな花をありがとう でも私の家では
ないと思うよ」と書いた紙を貼っておいた

それでもまた数日後 鉢植えが置いてあり
「あなたはこの花を受け取る価値があります」
と書いてあった

それから鉢植えは置かれてなかったが
昨日の帰りにはなかった鉢植えが
今朝ガレージの前にあって
彼は少し気味悪くなって僕をこんなところに呼び出して
落ち合ったということだった

「こういうモールなら紛れていいだろ?」
なるほど彼らしい
でも彼のトラックはとても目立つのだ
どこに行っても分かると思うのだが

しかし不思議な出来事だね
僕たちはいろいろなことを想像した
しかし証拠もなく
どれも一方が言うと片方が否定する
結局 何もわからず

陽も傾き 僕らはメキシカンレストランに行くことにしたのだ
彼の調子は実は良くって
でも態度は普通以下の時のそれだったから気にしていたんだけど
僕は少し安心した

to be...









  

Posted by びらーだ at 15:41
Comments(2)僕の時間

2014年12月03日

僕の時間 3




ガススタンドで満タンにして
コーヒーを一杯ついでに買った
仕事おわりでもまだ日は高い
しかしすでにクリスマスも
もうすぐTVニュースの話題になるだろう

いつもは真っ直ぐ家に戻るのだが
今日はどうもそんな気にはならない
昔はいつもだったけど
最近では何か月かにあるかないかの気持ちだ

いつものインターはすでに詰まっている
一台ずつ本線に合流する
まったく快適なスピードとはいかないが
僕のピックアップではこれくらいがちょうどいい

行く先なんか考えてもない
ガスもたくさん入っているから一晩中走っていても大丈夫なんだけど

ラジオの音を少し下げた
この道はコンクリートでできているから
タイヤのうねる音や周りのクルマの音で
車内は結構うるさいんだ

窓を少し開ける
ずっと吸ってなかったがコンソールの中に
この前一緒に遊びに行った友達のマルボロがあるはずだ

前を見ながら体を傾けてタバコを手さぐりで取り出した
そのまま手を上下にふり
少しだけ頭を出したブラウンのフィルターをくわえて引っ張り出した

あっ
火がないや
もうすでにタバコの味を体が期待しているのに

もうコンソールの中を探す気にもならない
胸のポケットに折れないようにそっとしまった

彼の不思議な体験をふと思い出した
そういえばあれから彼にも会ってないし
あの話の結論も出ていない

なんで女性だったのかっていうのも
彼の勝手な思い込みで
彼の話を聞いても
まったく確証なんてないのだった

ただ花の咲くその鉢植えが
彼の心の中で
女性の仕業であって欲しいとの
単なる希望だったのかもしれない

車内が冷えてきた
ヒーターを入れる
たぶん今年初めてだ
温かい空気が足元から流れ
埃っぽくそしてかすかなタバコのにおいが
湧き上がってきた



  

Posted by びらーだ at 19:01
Comments(0)僕の時間

2014年12月04日

僕の時間 4





目の前に大きなサインが飛び込んできた
その先のインターを降りる
そのまま真っ直ぐ走っていくと
海にでる

海に沿ってずっと続く道は
砂にいつも洗われている
ライトが照らし出す白っぽい路面が
きらきらと光る

陽はだいぶ傾いて
その海の向こう側に
沈んでいきたそうだ
ためらうことなく目の前から消えていく

でも朝になれば
反対側からやってくる
まるで子供とかくれんぼをしているようだ

知っているから
沈んだ太陽を追うことはない
そこで待つだけだ
そうやって誰もがずっと生きてきた

これも不思議と言えば不思議なことだ
鉢植えは不思議というより
「気味悪いけど そんなこともあるんだ」
僕は彼の事にひと段落つけようと
少しのメロディをつけてつぶやいた












  

Posted by びらーだ at 16:08
Comments(0)僕の時間

2014年12月05日

僕の時間 5





遠くの山に雪がかかっているのが見える
もうすぐあたりも雪にうもれて
モノクロームの世界に変わっていくだろう

少し内陸の街に彼はいる
そう
あの不思議な出来事から
一年ほどして
彼は結婚し そして新しい仕事のために
引っ越していった

そうだ
あれから引っ越すまでの話をまとめなくちゃいけない
何度となく彼や仲間で遊んでたりして
あの話も何度かしたんだけど

鉢植えはそのままではかわいそうだから
家の前に植えたこと
そうすれば芝と一緒に水をあげればいいから
枯らさずにすむこと

何かの木だったらしいのだが
名前は調べることもなく
一度近所の人から聞いたけど
忘れてしまったこと

そして
その後は何も起きなかったこと
もちろん鉢植はそれ以上増えることはなかったこと

彼はそのままで遠い町へ行った

僕はあれから二度ほど住む場所がかわったけど
この街に住んでいる
二度目に変わった時は僕も結婚した時だ
仕事をかえることなく同じことをずっとやっている

友達も去ったり新しくできたりしたけど
そのスピードは年とともに
少しずつスローダウンしていったんだ
感情の振幅なのだろうか あるいは時計の振り子のように
同じ時間を刻むのに 大きな振り子はゆっくりと見える

きっと変わったところなんて何もなく
僕の中でどこかが痛んだり錆びたりしていったんだろう

その昔は

変な匂いの煙の漂う部屋で
PINK FLOYDをおっきな音で聞きながら
みんなでパーティをしたことや

週末に3時間ほど走って砂漠の真ん中で
BBQしながらシューティングしたり
草レースや大きなドラッグレースに出かけたり
スタジアムでベースボールやフットボールを観たり

この街のチームはあまり強くなかったけど
盛り上がるんだ

いろんな事をいろんな奴らとやってきて
その頃
今は何のために生きているかっていうのも

時とともに
何のためにそんなことを考えるのかって風に
なってきて

外見は少ししわが増えて
あちこちが疲れると痛くなって
ソファでテレビ見ていても
お目当てのプログラムの前に寝てしまったり

僕だけじゃなくみんな
ひとつひとつ年をとっていく間に
一生に一度しかない経験をしていることになっているのだ

そう経験は一度だけ
この瞬間はそこに置き去りにされて
シんでも戻ってこない

シでさえ一度きりだ

同じことは何度もあるけど
やっぱり一度きり
仕事だってそうだ
昨日の自分ではなく今の自分がやってること

ギターだって毎日同じことやっていても
少しずつ弾けるようになっていくから
その場所は一回しか通らないんだよ

彼もそんなふうに生きているのだろうか
彼の幸せを願うし

僕もいつでも彼に会えるようにしていなきゃいけない

結局 海沿いの国道を
走っただけで何もなかったように家に帰った
「おかえり きょうはどうだった?」
妻は言った

「ああ 順調さ」
僕は笑顔を作った
いつものように

時々 ほんとに時々だが
笑顔をまるでペンやドライバーのように使っていることに気づいた
道具として自分を守る

虚像を僕のスクリーンに映すことは それほど難しいことではない

僕の感情が他の誰かに見破られる前に
僕はためらうことなく そうしてしまうことを
向き合うことの手段にしていた







  

Posted by びらーだ at 16:16
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2014年12月06日

僕の時間 6





テレビニュースでまたどこそこで戦争がおこったと
厳しい顔が語っている

誰かが誰かを痛めつけ
抗議の声が上がっていると言っている

新しい命がこの地球のために
生まれてきたと喜びの声

老人が増える
医療も福祉も国を壊すと
真剣に語る

シにゆく者に残り時間を示されず
国は途方に暮れることになりそうだと
言う

でも
ニュースを見て僕は感じることが
少なくなってきた

震えるほどの喜びや怒りに
それほどの時間を使えなくなっている
いや 使いたくないんだ

これも初めての経験なのか

自分が夜 家の灯りをみて
ほっとしながらドアを開けることが
どんなに幸せかを
少しずつ分かりかけてきたと思う

僕がきっと僕自身をかわいいと思い
時間が惜しく思うようになった証だろう

僕の矛盾は徐々に大きくなる
後戻りのできないほどの溝が
僕の後ろに広がっていく

妻が先に寝た後
何気なく眺めていたTVをそのままに
そっとポーチに出た
とっくに町は明日の準備をしている
とても静かだ

ポケットに入れてあったマルボロは
家に入る前にベンチに置いておいた
曲がって折れそうになっていた
僕のコンソールの中には案の定ライターが転がっていた

火をつけた

煙は灯りにまとわりついた後
静かに庭先に流れていった
そしてまた静けさに取り囲まれた

次の朝
冷たくなった風と久しぶりの雨に
悪態をつきながら仕事にでかけた



  

Posted by びらーだ at 16:23
Comments(0)僕の時間

2014年12月07日

僕の時間 7






クリスマスも近づいて
いろんな買い物をして
家に飾りつけを始めた週末

通りを走る車も人の装いも
日ごとに下がる気温に
少しぎこちなくなってきている

ただその電話をとるまでは
僕は静かにクリスマスを過ごす予定だった


そう 電話なんてものは
忘れた頃をずいぶん過ぎてからかかってくる

「やあどうだい?」
「ああ 元気さ」

大した会話でもないのだが
お互いの近況を話し また会おうで
電話をきるのだが 一度も実現していない

お互いその気がないのではないが
ふっと現実に戻り 今しなければいけない事を
毎日毎日していると
こんな風になってしまうのだ

今年の冬はいつになく寒そうだ
あれから何回クリスマスを過ごしただろう

僕の子供たちは 若かったころの僕と同じことをし
同じことで喜び同じ失敗をし
同じように自分たちで生きていくよう家を出ていった
当たり前の光景だが これも
僕の人生でのたった一度きりの経験

一度きりだから経験とは言わないのか
なんて この年になって考えるようにもなってきたが
経験ということにすれば 切れていた今と過去が繋がるから
寂しくないな と僕は片目を閉じて自分を納得させるのだ


彼からの電話は突然だった

「やあ久しぶり」という僕の声より先に
「俺の家 最近見たか?」 
いつもの調子ではなく 少し興奮ぎみに言ってきた

「家?」
「ああ 俺がいた家だ」

「いや 特にあれから行ってないよ
ああでも あのあたりは今も変わってないんじゃないか」

「そりゃいいんだけど お前の目で一度見に行ってきてくれないか」

年寄の注文はとても強引だ
いや失礼 彼は昔からそうだった

突然うちの前に来て僕のピックアップがあると
クラクションを鳴らす
僕が出ていくと
クルマの窓をあけて用件をすごい勢いで話し
「じゃあ」と言ってそのまま走り去る

彼は電話なんかよりそうやって顔を見て話す方が
いいらしい

そんな彼も変わってないなと
僕は少し楽しい気持ちになった
 
  

Posted by びらーだ at 17:32
Comments(0)僕の時間

2014年12月08日

僕の時間 8




近年にない寒波が訪れて
比較的温暖なこの街も
雪は降らないけどとても冷えている

いろいろなことが今年もあった

この秋には大きな山火事があり
一か月近く それほど遠くない山が
くすぶり続けた
夜には空がオレンジ色になり
このあたりの人たちはずっと心配していた

ゆるやかな谷を走る道は夏の異常豪雨で壊され
今でも工事中だが 最近やっと通行できるようになった

仕事も段取りが悪く時間が合わず
彼の電話をもらってから数日たっていた

何年振りという言葉をよく聞いた
僕も何年振りという出来事があった
それもこの季節になって
世界はどこかでつながっている
確信めいたものが僕の心に波紋を広げた

彼からの催促はなかった

そう 理由がある

なぜなら今週末 彼はこの街へやってくるからだ
彼もまた移動をし 今ではジェットで3時間ほどかかる
そんなところに住んでいる

あの電話の次の日 彼から再び電話があり
「どうせ見になんて行ってないだろうから 俺が行くよ
久しぶりだしな」
「そうか 何十年ぶりだろうね でもチケットはとれるのかい?」
「ああ何とかなるさ」

なぜか全く会ってないのに
彼とはあの頃のままのようだ

お互い声は低く たまにせき込んだり

言葉が見つからなくて黙ったり
少し会話もスローダウンしてきているが
気持ちだけはとても新鮮なんだ

こんな関係って凄いな
と この数日ずっと考えていた

山がさえぎることも海が沈めることも
空が消すこともなく
僕らはずっとお互いが好きだった
彼がもしそうでなかったとしても
少なくとも僕は彼のことをどこかでいつも大切に思っている
少なくとも僕は

いいクリスマスプレゼントになったのかな
この土曜日はイブなのだ

妻には事情を話した
イブに彼と不思議の冒険をすることをだ
彼を紹介することもしたいがその時間はあるだろうか
ただ僕の気持ちを察していたらしく
ただ大丈夫と言ってくれた

クリスマスの夜は家で過ごす
ずっとそうしてきたから

そして時には 故郷に帰ることのできない友人や一人で住んでる奴を招いたりして過ごすのだ

僕と同じような思いを少しでも感じてくれるのなら
来てくれる人には最大のもてなしをしよう
分け与えるなんてとてもできないから
ただただシェアしようといつも思うのだ

クリスマスはそうやって誰もがしてきたこと
だから自然に受け継いでいる

そんな日に彼はやってくる
ぜひ我が家で休んでもらいたい
僕は心を少しだけ躍らせた

僕は彼との時間を再度たどろうと
久しぶりにあのモールに行ってみた

まったく当時とは違う建物だ
名残と言えばパーキング沿いに並ぶ
パームツリーの景色ぐらいだった

荒野のようだったあたりの丘には
きれいに家の屋根が並んでいる

でも乾いた風は今日に限って
あの日のように吹いているように感じた

たどった時間はこれからやって来る時間より重いのだろうか
何の答えも出ないままだった


週末はエアポートに彼を迎えに行く



  

Posted by びらーだ at 17:04
Comments(0)僕の時間

2014年12月09日

僕の時間 9





静かにエスカレーターが動いている
そこそこ混みあったゲートは
楽しげな笑い声やどこからかのバンドの
バイオリンとギターの音で
賑やかだった

「やあ 久しぶり」
「ああ 」
がっちりと握手し抱擁した

彼の手は柔らかく暖かかったが
決して楽な人生を生きてきたそれではなかった


僕も似たようなものだ
世にいう成功とは縁遠い道だった
でも たった一度の経験のために
ここまでやってきたのだ

彼も同じだろう
僕が思うほど彼は僕の事を考えていただろうか
ま そんなことはどうでもいいのだが

彼は僕の家より先に今回の目的である
自分の住んでいた家を見たいという
僕はそれを断る理由なんて何もないから
エアポートからまっすぐ彼の家に向かった

何気ない会話がしばらく続いた
お互いの近況から徐々に深い昔の話しへ入っていく

長い時間が僕らにもたらしたものを
そんな中でも僕は考え続けていた

ただ
不思議なのはあの頃の調子のままということだ

ただ一つの話題を除いては
お互い拍子抜けしたほど自然だったのだ

「いや 驚いたよ あんなになっているなんて」
「よくわかったな?自分の家だってこと」
「ああ 確信したんだ 街の名前を聞いてな」

彼はテレビで見たのだ
或る夜 ニュースの中で僕の街が紹介され
その映像が彼の家だったのだ

この街はそれほど有名でもない
そしてテレビに写るほどの出来事なら
僕も知っていてもいいはずなのに
遠い地でのニュースはそんなものなんだろう

その日 彼は風邪気味で家にいた
いつもは見ないテレビを仕方なくつけていて
もう消そうかと リモコンに手を伸ばした時に
置いてあったコーヒーカップのコーヒーをこぼしてしまい
テレビのせいだと文句をいいながら片付けていたら
ニュースでその話題になったらしいのだ

「また不思議なできごとだな」僕はいたずらっぽく言った
「やっぱりだろ?」彼はウインクして微笑んだ

外は冬の景色だ
遠くの山は灰色にたたずんでいる
時折抜ける街は人通りは少ない
ただこの時間 家に帰る車は多い
スピードも速い
すでに陽は沈みかけている
遠くの空は鮮やかな深いオレンジ色に塗られ
青かった空も瞬きごとに藍を増していく

まだ何とか彼の顔も見ることができる

彼はおもむろに一枚の写真を取り出した
運転しながらもその写真を何度も見る
ルームランプを点け
前を見て写真を見て
そのどれも頭の中で整理しながら走る

それは彼が家の前で撮った写真だった
引っ越しの時に撮ったものだと彼は言った
彼がひとり立っている
そして

彼の後ろには

あの鉢植えの花の木が植えてある
あの出来事の一年後くらいなので
少し背が伸びている

「なつかしいな」
「ああ ずっと持ってたんだ」
彼はそういって前を見た
そしてそのまま沈黙が続いた

僕も彼も過去と今を行ったり来たりしているのだろう
少なくとも僕はそうだ
未来はまだ考えられない
明日にはまた今までと同じ暮らしが待っているのだと思う
でも一度きりの経験

流れる景色は彼にとってどんな風に写っていただろう

それなのに
僕は二人の空いた時間など少しも気にしなかった
これも奇妙な感情だった
彼もそうだったろうか

ただ
僕の不思議な気持ちはここから少しずつ変化していった
とめどなく理解のできない気持ちが揺れだした

彼に会えたことへの答えだと
僕は思っていたのだが


  

Posted by びらーだ at 17:03
Comments(0)僕の時間

2014年12月10日

僕の時間 10





クルマは
とても長い空白を
ゆっくりと思い出すように
通りを下る
変わってないとはいうものの
店や壁などはきれいだったり
汚かったり

ただ雰囲気は彼の住んでいた頃に近い
いいところだな と僕は思った

たぶん住んでいる人たちは
高齢になったり 彼みたいに出て行って
違う人が入ってきたりで
彼の知っている人は何人いるんだろうか

すでに日も沈み
ヘッドライトの灯りが澄んで見える
街のネオンも今日は特別な夜だから
早く帰りなさいと言っているようだ

彼は覚悟を決めたような顔とともに
幼いころに父親と釣りに行く時のような顔を
交互に見せていた

「あ あの先だよ」
緩いカーブを抜けると
彼のいた家はある
通りに沿って芝が歩道の両脇に敷かれ
高い木や低い花が並ぶ
家の前はそれぞれの手入れで
その家の人を表しているようだった

それぞれの家にはそれぞれにデコレーションが施され
天の国への道しるべのように静かに光っている

でも外なんかより家の中の暖かさを
光の漏れる窓から強烈に感じるのだった


すっかり暗くなった空の先がふわっと
明るくなっている
黄金の光がアーチのように空に向かって照っている

イブの夜だからそれほど混んではいない
そう こういう夜は家で静かに過ごすのが
このあたりの習慣だ
どの家も暖かな光が庭にかすかな
模様をうつしている

「ああ」
彼は思わず声を上げた
僕も彼と一緒にコーラスのように声を上げたのだが
僕の声は少し小さかった

家の前には背の高い木が植えてある
その木には様々な色の電球がつけられて
冷たい空気の中で熱を持って灯っているようだ
そして庭には神様がこの世界でみんなを祝福する

壮大で大げさではないものの
それを再現したかのように美しくデコレーションされていた
ひとつひとつが手作りのようなそのデコレーションは
それぞれの灯りが
僕と彼の人生を照らしているようだった

「これだよ」
彼の見たニュースはこのデコレーションだったのだ
これくらいのデコレーションはたくさんの家でもしているのにな
と 僕は一瞬思ったが 光の美しさを
彼と共有しようと 静かに見ていたのだった

無数の星が光る木は
彼が鉢植えをそのまま庭に植えたものだった

彼は静かにその木を見ていた
何かを取り戻すように 長い長い道のりの果ての今を
経験している

いつのまにか
僕も静かに来た道を思いながら
彼と一緒にその木を見ていた

すると
家のドアが静かに開いた

この家の家族だろう

小さな娘と息子そして
まだ若い夫婦

こちらへ楽しそうに微笑みながら歩いてくる
僕たちふたりが通りに立っているからだろう
こんな夜に男二人がデコレーションを見ているなんて
きっと異様だったに違いない

でも
声をかけてきたのはその家族だった

「メリークリスマス」

彼はただ微笑み

「素敵ですね、すいません 勝手に見ていました」
彼はまるで自分の親しい人に会ったかのように
優しくおだやかに言った

「いえ いいんですよ」主人が言った

「ええ そうよ みんなでつくったの」小さな娘も続けた

「素敵だね」彼は二人の子供にあらためて優しく語りかけた

「ありがとう」
子供たちは声をそろえた
そしてにっこりと笑った

「あ あの」彼がそう言おうとした時

「わかっていますよ」奥さんが言った

「え?」

「誰にでも幸せを受け取る権利があるんです」

えっ? 僕は彼の少し後ろに立ちその言葉を聞いた

この木のことを知っているのか?


ほんの少し静寂が流れた
世界から音が消えた
ただ小さく光る無数の光が
遠く宇宙へ誘うかのように
輝いている

「ああーっ」

声にならない声をあげ
次の瞬間
彼の目から突然涙があふれた
その涙はとどまることなく
次から次へと

もう彼は声にならない声で目頭を押さえ
肩を揺らしている

まるで小さな子供が
何年分もあわせて一度に泣いているようだった

その家族は優しく微笑んで彼を見ていた

それは僕にとっては理解の難しい出来事だった
彼のいた家だとは知らないはずだし
木の存在の理由もそうだ

でも 僕はすべてがきれいに消えていく感覚を覚えた

僕はとても冷静になっていた

そして彼の思いを僕なりにたどって
彼を見ていた

どんな奴だって  いいことばっかではないから

でも僕自身と彼を比べることはしなかった
そんな気持ちは少しも起きなかった

知ることのない人それぞれの時間
それは誰でもそうだが
慟哭の波にさらわれそうになるほどの
時もあるはずだ

心が震える人生は良い人生なのか
一度の経験
これは彼の人生だし
僕は僕という人生を経験している

その夜のことは その後少しの間僕の中に
小さな穴を開けていた

でも彼に涙の理由や
そもそもあそこへ行こうとした本当の理由を
聞くことはなかった


彼は優しい笑顔で飛行機に乗った
僕は彼にもう二度と会えないような気がした

「ありがとう」

「こちらこそ」

搭乗の時間が近づいている
クリスマスの今日はとても良い天気
そしてとても深い青い空だ

その空へ彼はまもなく消えていく
「あの家族は優しかったな?」

昨日から何度となく言っていた言葉をまた繰り返した
「ああ」
僕はやはりどうしても
聞けずにいたことを思い切って尋ねた

「あの家族は知っていたんだろうか?」

彼は何も言わず口元を少し緩めて僕を見た
僕は耐え切れずまた口を開いた

「いい旅だった」
彼はそれには軽くうなずいた

そして固い握手と抱擁をして
彼は搭乗口へ消えていった



僕には様子がわからなかったが

あとで気がついたことがある

僕も夢なのか現実なのかわからない

そして僕はまだこの街にいる

数日後あの家に行ってみた

そのあたりの道はきれいに整備され

あの木はなかった

そして何年も前からあったかのように

そこには小さな花壇があった

とても不思議なことだが
とても澄んだ気持ちになった
彼の願いは叶ったのだろう

僕が受け入れれば何でもないこと

そして彼に伝えるのはやめておこうとも
思った


あの夜はなんだったのだろう

何かを受け取る権利を

すでに

僕ももらったようだ















  

Posted by びらーだ at 17:02
Comments(0)僕の時間

2014年12月14日

僕の時間 11





砂浜から大きく海へ突き出したピアの上では
釣り糸を垂れる人たちが週末ごとに増えてきた
海岸沿いを貫く国道をサーフボードを抱えた若者が
裸足のまま
猛スピードのクルマを縫って海へと走り渡る

鮮やかなイエローのSUZUKIが道路わきに停まっている
ビーチガードのレンジャーがサングラスをかけたまま
双眼鏡をのぞきこんでいる

このビーチではずっと昔から飲食が慎まれている
アルコールはもちろんだ
そういう場合は砂浜から上がったこの国道までやってくる
あまり安全だとは言えないこの街でも
子供の集まるところはとにかく厳しい
時代が変わっても 大切なものを守ることは
誰にでもある純粋な感情だろう

だからゆったりと静かな週末を過ごしたい人たちが
思い思いにやってくるのだ

色とりどりの花が咲き
国道から少し入った通りはさまざまなショップが
すでに夏のような雰囲気でデコレートされている

ゆっくりと進む時間を
コーヒーとともに楽しむ
何もせずともこうやって
楽しんでいる人をみることが楽しいのだ

遠くから波の音が時折風に乗って聞こえてくる
低く唸る声にも似ているが
知らない間にその波長に深く身をゆだねている自分に気づく

ぼんやりと昨夜のことを考えていた
あの時
僕は自分に想像もできないようなことでも
何も躊躇することなく受け入れることができる能力と寛容が
あることを知った

またそれが僕のドアを開けた
一瞬の動揺ののち
僕は静かに中に招き入れたのだった

それは
一本の電話だった

それは彼の息子という男性からだった

初めて話したが
彼と同じ声だったからすぐにわかった

彼の息子は僕のことを探していたらしい

この街の事や友達のことは多少話で聞いていたらしいが

「うちの父がお世話になったようで、、、」
「いや 仲良しだっただけさ お互い何もしちゃいないよ」

「実は先日 家を整理していたら
父の遺品の中から一枚のカードがでてきたんです」

「えっ?今なんて言った?」

「あ すいません あのご存じではないんですね?」
僕はその電話の意味を知りたくない気持ちで
一気に心が満たされた
だが彼の息子は話を続けた

「私の小さいころ父は亡くなったんですが その頃のことだから
きっと父の友人の方は知っているかと思いました
失礼をいたしました」

何を馬鹿なことを言ってるんだ
僕は彼の息子であることを疑いたくなった
同時に胸の奥の方が一気に締め付けられた

「あの どういうことですか?」
僕はもう一度 彼の息子に聞いた

「父の遺品の中からでてきたカードがとても不思議だったんです
そしてその裏にはあなたの名前が書いてあった
私は父の住んでいた街の友人に違いないと思い探しました
そして今電話しているんです」
「ああ わかった で 何て?」
僕はまったく聞く気もないことを聞いていた
そもそも彼がもういないなんて 

「表には あなたはこの花を受け取る価値があります と
書いてあります そして裏には父の字であなたの名前と
メッセージが、、、」
僕は彼の息子がそこで話を止めたことに
彼と同じ優しさを感じた 
こんな場面では彼もきっとそうしただろう

「でメッセージにはなんと?」
僕はすでにすべてを受け入れる準備ができていた
というより そのあと僕に湧き上がる感情を予測することが
とても困難だったという方が正しいだろう

「僕を救ってくれた 人生の経験は一度きり
永遠に感謝する」
しばらく沈黙のあと再び彼の息子は静かに続きを読んだ

「僕の時間を捧げる いつか真実を知るために」

聞いているうちに僕は目の前がひどく歪んできた
言葉では説明できない感覚が
目の奥の痛みがとても深くなる

「ありがとう」
僕はそういうのが精いっぱいだった
連絡先を聞いて
僕は彼の息子に会いに行く約束だけはした

ただ何も整理のついていない部屋の中で
僕の時間をもう一度考えなくてはいけないと思い始めていた



  

Posted by びらーだ at 12:44
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2014年12月15日

僕の時間 12





飛行機の窓から下をのぞいてみる
茶色のスクリーンの上に白い綿を置いたように
雲が漂っている
特有の景色だ
こんな色だから
何度見ても命の躍り上がるような力をとらえ切れない

でもその下にはこの星でしか生きられない僕も含めた
生命体が無数に散らばっている
命とは地球に身をゆだねていることだ
ただ生きることになぜこんなにも疑問が生まれるのか
生きるということは謎解きの連続なのか

何も答えが出ないまま去っていくことだってありそうだ

僕の疑問は氷が解けていくように
何も残さずに水となって海にそそがれていくのだろうか
とても冷たい窓にそっと触れて
僕は前に向き直った

そのまま目を閉じる
気圧の変化なのだろうか
ジェットの音が耳の中で鳴り響いている
空気を切り裂く音とともに
低く幾重にも重なった音

知らない間に夢と現実の感覚が麻痺していた
いつまでも飛び続けてくれ
このままずっと永遠に

心地よさと嫌悪感が混ざりあい
暗いグレーに染まった空が頭の中で一杯になった


ふと体が軽くなった

ゆっくりと高度が下がっていく
チャイムが鳴りシートベルトのサイン

期限の悪さを急いで飲み込んで
シートバックを立てた

ジェットは雲を抜け地獄に落ちていくようだ
機内は着陸に向けて少し騒がしくなった

もうすぐ会える




海はどこにもない

彼の住んでいた街は
砂漠のようなところだった
乾ききった風は砂埃を巻き起こし
通りの店の看板は僕の街の一昔前の風景だ

ただ人はそれなりに多い
少し離れた街に大きな工場があるらしい
通勤できる距離なのだろう
だからよそ者も多いのだろう

彼の家はもうない
空港からは彼の息子のクルマで
そんな景色を眺めながら通り過ぎた

ゆっくりとしようとは思わない
このまま今日か明日の飛行機で帰る予定だ
この頃の僕はすぐに疲れがでて
何事をするにもつらくなる
命の活動は続いているが
静かにしている時間が増えた

いろいろなことを考えるが
最後まで思考がもたない
すぐにどうでもいいと考えるようになった
あの頃のような輝きはもうない
薄暗い納屋の電球のようになっているのだ

一晩ここに落ち着いてもいいのかもしれないが
ただ帰るというエネルギーだけ欲しい
それだけは答えをだすことができた

ずっと心にとどめていたが
妻を亡くした
家は僕ひとりだ
子供たちはとっくに出て行っている
だから時間はある
急ぐことはないのだが

ただ僕の時間もあまり多くないと
密かにわかってはいた
近頃は
時計の針をむやみに慈しむこともある

僕は彼の墓へいくことと
彼の残したカードを見ることだけでいいと思った
そのメッセージの意味が 少しは分かるかもしれない

そして彼の息子に会って彼との思い出を話すこと
時間なんていくらあっても足りないようだが
クルマのなかでも話せるさ

「私は父の思い出があまりないんですが
とても強い感情がずっとあって 父のことを知りたいと思ったんです
で あなたが父に一番近い方なのではないかと思ったんです」

「そう 彼とは仲は良かったが それほど彼が僕のことを思っていてくれたなんて
知らなかった でもこんないい息子に合わせてくれるなんて 今さらだが彼に感謝だよ」

時間軸が完全に崩壊している
僕はこの現実がどうなろうとも受け入れようと思った
感情の震えはもうない
百年のあいだ何も棲むことのなく静かに動かない湖のようだ

  

Posted by びらーだ at 17:42
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2014年12月16日

僕の時間 13




あまり整備されているとは言い難い道をゆっくりと走っていく
時折反対車線からやってくる大きなピックアップ
自然に運転席に目がいく
知らず知らず彼を探している
当然だけど
誰一人僕の視線を気にすることなく
一瞬にすれ違っていく

街を外れ車からの景色は
きれいに整えられたかのように並ぶ
針葉樹の森
所々が開けていて いくつかの家が
ダイスを転がしたように思い思いの向きで建っている
そんな道をしばらく走った
忘れたころに現れたシグナルを越え
少し行くと木々の間から
大きなパーキングが見えた

たくさんの墓が並んでいた

とても短い時間で淡々と過ごしているように感じる
僕の頭の中は過去と今を行ったり来たりしている

彼の息子も同じように僕への義務を果たそうとしているのか

迷うことなく
彼の眠っている墓に歩いて行った
僕もその後ろをついていく

「こちらです」

軽く手を差し出したその先に
彼の名前を刻んだ墓があった

黙ったままその前に立った
墓碑銘には彼の人生の長さが刻されている

やりきれない現実が目に入り
再び僕の頭の中を満たす
こちらへ来てまもなくと思われる年号に
疑いの思いもなく
静かに目を閉じた

誰に言われることもなく
僕はすべてを受け入れた

「ありがとう、、、」
僕は彼に言った

その次の言葉は僕なりに選んだつもりだったが
適切だったのかはわからない
ただもう充分だと
不思議な満足感が湧き出してきた

「すまないがどこかで休憩できないか
少し疲れたようだよ」

彼はうなずいて 歩き出した

実際 遠い道のりをひと息にやってきた
すべてを明らかにすることが僕のエネルギーだった
しかし もうどうでもよかった

細い国道の脇にあるドライブインに入った
ガススタンドと小さなドラッグストアに連なって
カフェがある
オープンの看板が窓に立てかけてある
外のサインは陽の光に長年痛めつけられ
すっかり勢いをなくしたレッドが僕たちを見下ろしている

テーブルでコーヒーを注文した

彼はそれを待っていたかのように胸のポケットから一枚のカードを出した
それは あのカードだった
「これを、、、」
僕に差し出されたカードをそのまま受け取りその状態のまま
自分の顔を近づけていった

あえてエアポートで見ることもなかった
彼もそのタイミングを探していたかのようだ

そこには彼が言っていたメッセージが書かれていた
長い時間を経て薄くなったインク
でもしっかりとした字はすぐに読み取れるものだった

そして
ゆっくりとカードを裏返した
彼の字だ
電話で聞いた言葉 そのままだ
そして僕の名前が書いてある

何度も読み返す
何度も何度も思い出してきた過去がまた現れる
僕の中はあの頃に戻り そこからまた時計が動き出したような気持ちになった

「あの もうひとついいですか?」
彼は一枚の写真を僕の目の前に静かに置いた
カードを持ったまま テーブルの写真を見た僕は
声を上げ
動けなくなってしまった
写真を見つめ続ける

ほんのしばらくの後
あのイブの夜の彼のように
僕は自分の体が震えているのに気がついた
今まで僕の中に満ちていたものがすべてこの世界へでてきたようだ

店には何人かお客がいたが気づかれないように
静かに手で顔を覆った

思考の時間に伴って震える僕の体には
大きな波が押し寄せる
しばらくは息もできず苦しいほどに
胸の中から痛みがせりあがってきた


その写真は彼があの日僕に見せてくれたものだったのだ

そう引っ越していく前の彼の家の写真


ただ僕は見ただけではこんなにならなかったろう

その写真に写っている

彼の家の前で立っているのは

静かに笑いこちらを向いて立っている



そして



だったのだ






  

Posted by びらーだ at 19:39
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2014年12月21日

僕の時間 wayout




夜もまだ明けない頃

ボーリング場の駐車場にワゴンやトラックが一台二台と集まってくる

夏も終わりに近い
朝は乾燥した昼間とは違い
微かにただよう湿気に
身震いする

何人いたのだろう
でかいダッジの荷台に
ビールやワイン
肉の塊 チップスやフルーツを積み込み
ワゴンにはオフロードバイクが積まれている

そして何の合図もなく
それぞれのクルマに乗って
真っ暗闇の中へ入っていく

街を抜けゆるやかな上り坂が何十分も続く
町はずれにあるペプシのネオンサインを通りすぎると
もうそこから先はほとんど家もない

目の前を黒い動物が横切る

2時間くらい走っただろうか
後ろについてきた奴が反対車線に出て
僕らのクルマの横に並んだ

「少し休もうぜ」

彼らのクルマは僕らを追い越して走り始めた
しばらく行くとガススタンドのネオンが小さく光っている
彼らはウインカーをだしそこへ滑り込んでいった
僕らも後に続く

僕のクルマはまだガスは十分にあったが
とりあえずみんなフルタンクにした
すぐ隣のパーキングに車を停め
それぞれに煙草を吸ったり
はしゃぎ合ったり
店に走ってチョコレートバーやコーヒーを買いに行ったり

漆黒に塗られていた
東の空は濃いブルーが徐々に薄められ
かすかな大地の輪郭がはっきりしてくる

そうなると
冷たい光を放っていた
無数の星は少しずつ消灯だ

ワット数の大きな奴だけ最後まで灯っている
まだ目的地には少しあるが
慌てる必要もない

「じゃあいこうか」
無秩序な集団は
その声を聞いてまた各々車に戻るのだった

やがて空は赤く燃えてくる
そして光が僕らの目に
突き刺さる

陽も高くなった頃
少しの眠気と共に
目的地に到着した

広大な森の中
きれいな川が流れる美しいところだ

ある奴は積んできたバイクを降ろす

勿論パーティーの準備も進んでいる
それとは別にいくつかのプラスティックや鉄製のケースを
降ろす
その中には銃や弾丸が入っている
シューティングも僕らの間ではスポーツなのだ

生き物は絶対撃たない
空っぽになった缶や
要らなくなったバケツ
それを標的にして遊ぶのだ

それが日常だ

でも
銃を持ってこの国はどこへでも出かけていく

そしてそのスコープには

空き缶やバケツは映らない
力のみが正義

この国のアイデンティティーは
引き算で答えが出ると思ってる

誰もわかっていても口には出さない
虚無感の理解だ

明るく楽しく撃ちたい奴だけが遊ぶ

バイクで走り回っているやつは森の奥へ消えていく
ビールを片手に腰かけて話しているやつだっている
肉を焼く煙が時に目にしみる


久しぶりの楽しい休日だ

こうして季節は回っていく
いつまでも続くとは思っていない
いつかはどこかへ皆行ってしまう
さよならなんて言うのは簡単だ

それでも僕らは同じ時間を
生きようとする



  

Posted by びらーだ at 13:14
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2014年12月31日

僕の時間 time




自分でも気づかないことは多く
日々の暮らしもそのまま過ぎて行ってしまう

小銭入れを忘れたり
夕方暗くなって洗濯物を慌てて取り込んだり
コミュニティのボランティアの日にちを間違えていたり

僕の人生は他の多くの人たちとそれほど変わるものでは
なかったはずだ

誰もが同じように経験しながら時間の中を進んでいく
光だろうが僕が歩こうが
一瞬の進む距離は違っても
時間は同じだ

僕の通りすぎてきた時間をいまさら評価しても
何の意味もないだろう
全てが初めての経験でやってきたこと
繰り返すこと それは新しい経験

彼の息子は静かに
僕を見ながら とても優しく微笑んでいる

「そろそろ いきましょうか」

僕は軽く手で合図をして
テーブルにあったナプキンでそっと顔を拭いた

何となくわかっていた
僕の時間はここでひとつの区切りをつける
現実を歩いてきたと思っていたのに

でもこうして心の震えることを現実として
僕は感じてもきた
夢だってその世界にひと時でもさまようのなら
そのことは現実としてとらえられる

ただ僕に起こらなかっただけだ

一体どこまでが僕の時間と言えたのだろう

彼のあの不思議な話は何のためだったのか

あたりの色は少しずつ薄くなっていく
想像しても宇宙の色は極彩色ではない
光と影がその空間を満たしている



「この前とても不思議なことがあったんだ」

その声に僕はふと我に帰る

彼だ

あの頃の彼だ


「もうわかったよ

ありがとう

僕もいい経験をしたよ

僕にも

受け取る価値があるんだね

救ってくれて感謝しているよ

僕も行くよ」

僕もあの頃に帰る


僕にもやっとその答えがわかった

席を立とうとして

テーブルの上にあった写真に手を伸ばす



もう一度 写真を見た

彼の家

彼と僕が笑っている

でも

あの木は

彼が植えた

イブに二人で見たあの木は

写真の中にはもうなかった





Thanks for all.



  

Posted by びらーだ at 11:05
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