2014年12月15日
僕の時間 12
飛行機の窓から下をのぞいてみる
茶色のスクリーンの上に白い綿を置いたように
雲が漂っている
特有の景色だ
こんな色だから
何度見ても命の躍り上がるような力をとらえ切れない
でもその下にはこの星でしか生きられない僕も含めた
生命体が無数に散らばっている
命とは地球に身をゆだねていることだ
ただ生きることになぜこんなにも疑問が生まれるのか
生きるということは謎解きの連続なのか
何も答えが出ないまま去っていくことだってありそうだ
僕の疑問は氷が解けていくように
何も残さずに水となって海にそそがれていくのだろうか
とても冷たい窓にそっと触れて
僕は前に向き直った
そのまま目を閉じる
気圧の変化なのだろうか
ジェットの音が耳の中で鳴り響いている
空気を切り裂く音とともに
低く幾重にも重なった音
知らない間に夢と現実の感覚が麻痺していた
いつまでも飛び続けてくれ
このままずっと永遠に
心地よさと嫌悪感が混ざりあい
暗いグレーに染まった空が頭の中で一杯になった
ふと体が軽くなった
ゆっくりと高度が下がっていく
チャイムが鳴りシートベルトのサイン
期限の悪さを急いで飲み込んで
シートバックを立てた
ジェットは雲を抜け地獄に落ちていくようだ
機内は着陸に向けて少し騒がしくなった
もうすぐ会える
海はどこにもない
彼の住んでいた街は
砂漠のようなところだった
乾ききった風は砂埃を巻き起こし
通りの店の看板は僕の街の一昔前の風景だ
ただ人はそれなりに多い
少し離れた街に大きな工場があるらしい
通勤できる距離なのだろう
だからよそ者も多いのだろう
彼の家はもうない
空港からは彼の息子のクルマで
そんな景色を眺めながら通り過ぎた
ゆっくりとしようとは思わない
このまま今日か明日の飛行機で帰る予定だ
この頃の僕はすぐに疲れがでて
何事をするにもつらくなる
命の活動は続いているが
静かにしている時間が増えた
いろいろなことを考えるが
最後まで思考がもたない
すぐにどうでもいいと考えるようになった
あの頃のような輝きはもうない
薄暗い納屋の電球のようになっているのだ
一晩ここに落ち着いてもいいのかもしれないが
ただ帰るというエネルギーだけ欲しい
それだけは答えをだすことができた
ずっと心にとどめていたが
妻を亡くした
家は僕ひとりだ
子供たちはとっくに出て行っている
だから時間はある
急ぐことはないのだが
ただ僕の時間もあまり多くないと
密かにわかってはいた
近頃は
時計の針をむやみに慈しむこともある
僕は彼の墓へいくことと
彼の残したカードを見ることだけでいいと思った
そのメッセージの意味が 少しは分かるかもしれない
そして彼の息子に会って彼との思い出を話すこと
時間なんていくらあっても足りないようだが
クルマのなかでも話せるさ
「私は父の思い出があまりないんですが
とても強い感情がずっとあって 父のことを知りたいと思ったんです
で あなたが父に一番近い方なのではないかと思ったんです」
「そう 彼とは仲は良かったが それほど彼が僕のことを思っていてくれたなんて
知らなかった でもこんないい息子に合わせてくれるなんて 今さらだが彼に感謝だよ」
時間軸が完全に崩壊している
僕はこの現実がどうなろうとも受け入れようと思った
感情の震えはもうない
百年のあいだ何も棲むことのなく静かに動かない湖のようだ
この記事へのコメント
わたしこの唄大好きです。
ぴらーださんは
片岡義男と
村上 龍と
村上春樹
と…
いちばん好きなのは…?
わたしは村上 龍ですけど
ぴらーださんは
片岡義男と
村上 龍と
村上春樹
と…
いちばん好きなのは…?
わたしは村上 龍ですけど
Posted by 週末
at 2014年12月21日 02:51

週末さん
ありがとうございます。この唄とアイシャルビ…は 時折ふと聴きたくなります。 春樹さんは宇宙です。三歩進んで二歩さがるという感じ 義男さんは感覚的に近いかな 洋物の雰囲気と勝手に思い込んでます。 龍さんはあの文体がいいですが読んでるとあの人の声になっちゃうんですね。どなたも好きですが やっぱ私も龍さんかなあ☺
ありがとうございます。この唄とアイシャルビ…は 時折ふと聴きたくなります。 春樹さんは宇宙です。三歩進んで二歩さがるという感じ 義男さんは感覚的に近いかな 洋物の雰囲気と勝手に思い込んでます。 龍さんはあの文体がいいですが読んでるとあの人の声になっちゃうんですね。どなたも好きですが やっぱ私も龍さんかなあ☺
Posted by びらーだ
at 2014年12月21日 11:24

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