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2014年11月21日

singer 2

singer 2



小さな木製のドアはその下の方から
色が剥げている
雨の跳ね返りや日に当たることで
灰色から薄茶色のグラデーションが
ほんの少し哀愁や歴史を細い路地にさらしている

昨日ドアの横に置きっぱなしの錆びついた郵便受けに
そのはがきは投げ込んであった
差出人は書いてなかった
裏にはとても鮮やかな夕日と
砂浜に乗って
控えめに白い線を引く波
水平線の下には空の色をしっかりと写している
穏やかな海

その写真の空の上にボールペンで短い言葉が書いてあった

「ふっ」
思わずため息とも感嘆ともつかない声が
タバコの煙と一緒にでた

そのままグラスの間に立てかけて
そのまま昨日は店を閉めたのだ

カウンターに座り
もう一度ゆっくりと手にとった
ここの住所と店の名
切手が少し斜めに貼りつけてある
ここで消印を確認したりするところなんだろうが
はがきを裏返し写真の下を目を凝らして見た

「秋田?」
その写真は日本海の海水浴場だった
夕陽のきれいな海水浴場には誰もいない
売りはこの夕陽なのだろうか

どこかに出ていったとはいえ
たまに届くはがきで無事を確かめられる
仕事は適当に見つけているんだろう

どちらにせよワタシには帰ってこいなどという
権利もないし探しに行く元気もない
そうでなくても住所もなにも書いてないんじゃ
どうしようもないのだ

こんなことがたまにある
前回はいつだったか
九州からの絵葉書だった
桜島からゆったりと煙のでている写真

年に一度か二度こうやって届くはがき
ワタシがまだこの店をやっているからいいのだが
やめてたらどうするんだろう
そのはがきは宛所尋ね当たらずの差出人不明で
灰になってしまうんだろうな

ワタシはこのはがきを受け取るためにここにいるわけではないが
心も波立てずに突然届く言葉をどこかで待っていたのかもしれない

エアコンもオフのままだったので
額から脇から汗がにじんでいる
大きく息をつきそのはがきをうちわ代わりに
外へ出た
久しぶりに雲は切れ
真っ白な太陽がワタシの目を細めようと
容赦なく光の矢を放っている

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最後にこう記してあったはがきは
いつになるかわからない次のはがきが届くまで
店の壁の隅に貼りつけたままになるのだ





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 singer 1 (2014-11-21 17:35)

Posted by びらーだ at 19:36
Comments(0)singer
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