2014年10月29日
atta
この僕にも多少の運というものがあるのなら
静かに引き延ばして
最後まで少しずつ使っていきたい
と
今日はそう思うのであった
勝負も大切だけど
勝負じゃない時間のいかに長いことか
これに気づくのに
どれほどかかったのか
誰かが教えてくれるわけでなく
調べてみたって答えなんて書いてない
突然 石ころに躓くようなものだから
始末に悪いのだ
毎年 その畑に遊びに行く
一年を通じて ある季節ある数日だけのこと
それが今年もやってきた
学校も昼休みになると はやくも帰り道の相談が始まる
ナスが言った
「今日も行く?」
シンミーと僕が答える
「おう」
そんな感じで数人の仲間が急きょ結成される
風は時折冷たく
いまだに夏のことを忘れられずに
でも思いっきり傾いたところでお昼のチャイムを聞く太陽の
ちくちくとする光を優しくなだめているようだ
どこまでも青い空は 校庭の薄褐色とで
この後何十年も僕の中に刻み込まれる風景となった
眠気を誘う午後の授業をおえ
先生に叱られながら
てきとーに掃除をすます
ほうきやぞうきんを「掃除道具入れ」に投げ込み
そわそわと僕らは「さよなら」を待った
晩秋の日差しはすぐに横倒しになる
影は非常識に長くなり
僕たちはテレビだけでまだ見たこともない外人のような
足の長さを自慢しながら歩いていく
歩道のない道路を後ろからダンプトラックが追い越していく
でこぼこのアスファルトが揺れるのを僕らは目を合わせて
驚いた
「じしんだ~」
結成した隊のひとり ウエキンがひとり走り出した
馬鹿なやつだなあ
と僕らは思ったが
あっと気がつき全員が全力疾走でウエキンに続いて走り出した
その畑は
何百本と柿の木が植えてある柿畑なのだ
そしてこの季節とは
緑から黄色へそして
黄色から金色へと
甘みをしっかりと蓄えた柿の木の収穫の季節なのだ
いい遊びでは決してないのだが
僕らは柿はひとりにひとつとみんなで決めて獲らせてもらうのだ
そしてしばらく満喫したあと
静かに次の目的地へと繰り出すのである
畑に一番に入ることは
タクサンの葉っぱと金色の実がちらばる宇宙に
飛び込む宇宙飛行士第一号とおなじ名誉なのだった
まあ 一番でも二番でも
美味しい柿に巡り合えるというのは別の問題で
家が途切れた道の先を右に折れ
少し細い道に駆け込んでいく
両側に生垣の続く道
そしてその向こうに並ぶ家
昼間でも薄暗い納屋の奥が少しだけ見える
姿は見えないけどいつも大きな声で鳴く犬
その通りには仲良しのトンちゃんの家があるけど
そのまま通り過ぎる
ついこの前は遊びすぎて家に帰ってから
母さんにおこられたっけ
街灯の電球も切れていて夜は
それこそ宇宙に続く道のようで怖かった
僕らは脇目も振らずに走り抜ける
そしていつも止まっている耕運機の向こうの生垣の切れ目から
もう一つの金色宇宙の畑へ突入したのだった
今日がきっと最後かな
そして僕らは走り回りながら冬に飛び出していくのだ
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