2014年08月02日
口笛

テーブルの上からボールペンが転がって床に落ちた
床の上で少しの間だけプロペラのように回っていたが
すぐに止まった
足を静かに伸ばしボールペンの在り処を確認して
自分の方に引き寄せた
テーブルの下での出来事
何事もなかったように新聞に挟まれていたチラシを広げ
ぼんやり眺めていた
昭和の真ん中過ぎにできた住宅街
畑や田んぼ 小高い丘を平らにならして
できた街
薄い茶色の土と灰色のアスファルトが印象的だった
見る見るうちに家が建ち並び
朝夕は通勤のお父さん
その後に続く子供たち
少しの静けさを取り戻した中で回る洗濯機や
スオウスオウと掃除機の音
夜は明るい窓から
街灯の下に溢れ流れてくる笑い声
時折どこかの犬が吠え
遠くで救急車のサイレンが小さく響く
誰かに送ってきてもらったのか
クラクションを短く鳴らして闇に滑り込んでいくクルマの音
少しだけ開けた台所の窓
白い茶碗や裏返した鍋の色だけ覗いている
夕飯の香りも夜の風にすっかり飛んでいってしまい
風呂で湯をかける音や
学校で教わったうたをうたう声
暗闇に光る猫の宝石のきらめき
その上をずっと飛んでいる
通りのひとつひとつをスムーズに回旋する
街のはずれの草むらがサワリと揺れる
ふっと息を吐き出し
足元のボールペンを拾った
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