2014年06月09日
F's day
人も少なくなる終電近くの駅のホーム
慌てて改札を通ったものの電車も来ておらず
拍子抜けしたようにゆっくり歩く
蛍光灯の淡い青が冷たく静かにホームの黒いコンクリートを照らしている
真っ暗な海の中にポツンと浮かび上がる島のようだ
その島から暗闇へ線路が伸びている
規則正しいその模様は
日常が染みついた心に何かを決心するきっかけを
見つけださせてくれるかのようだ
細い鉄の柱が何本もホームの屋根を支えている
すでにシャッターを下ろしている小さな売店の向こうに
ベンチが背中あわせになっている
自動販売機の光が淡く届いている
へこんだビールの缶が転がっている
タバコの吸い殻がベンチの下でつぶれている
夜が深くなるほどに昼間のルールは置き去りにされる
一人の男性がそのベンチの端に座っている
寝ているようだ
スーツはしわがついている
ポケットには何かが入ってふくれている
ネクタイを緩めたシャツの襟がスーツの首のあたりからはみ出している
左手に抱えたカバン
仕事帰りだろう
この時間まで飲んでいたのか
もっと早くからここで寝てしまったのか
そのベンチの反対の端に腰かけた
下を向いて動かないその男性を横目で見
すぐに目を閉じて電車を待った
遠くで駅のアナウンスの声
誰かの笑い声
通りすぎる電車の音
ふと気がつくと
となりの男性はいなくなっていた
座っていたそこにはハンカチがあった
忘れていったのだろうか
と しばらくそのハンカチを眺めていると
そこにいた男性がもどってきた
「あ ここにあった」
ハンカチを拾い上げると
そのままスーツのポケットに突っ込んだ
「ふう」
その時 なぜかその男性と目があってしまった
軽く頭を下げた
忘れていったハンカチには気づいてなかった
それをまずはアピールしなくてはならなかった
「電車 遅れてるみたいですよ」
その男性は話しかけてきた
ホームには何人か所在無げに立っている人たち
「あ そうですか」
それ以上の返す言葉が見つからなかった
そういえば駅のアナウンス
聞いているようで聞いてなかったのか
特に焦る理由もないのだが
少し残念そうな顔で笑顔をつくった
「きょうは父の日なんだそうです」
突然 言われて 思わず頷いてしまった
「特に何もないんですけどね」
少し年上に見えるその男性は
苦笑いのあと ふっとホームの遠くに目をあげた
「もうすぐ日が変わりますね」
日曜日の夜 仕事帰りというのはそれはそれで大変だろう
「おわっちゃいますね」
その男性もそう言って またベンチに腰かけた
その後 しばらくの沈黙
再び目を閉じていたが
その男性が少し気になる
そっと見て見ると
また静かに目を閉じて居眠りをしているようだ
駅のアナウンスが何度も謝っている
電車が来るようだ
「やっときたか」
寝ているその男性に聞こえるように
すこし大きな声をだした
その男性は
ゆっくりと顔を上げ 小さくノビをした
「さて」
今度は忘れ物のないように自分の周りを見回し
「おつかれさまです」
その男性は軽く頭を下げて立ち上がった
電車の音がレールを伝って距離を教えてくれる
遠くから小さな光が細かく揺れながら近づいてくる
ドアの停止場所を選ぶ
その男性とは違う位置に歩く
電車からはそれほどの人は降りてこない
中もポツリポツリと座席に頭が見えるだけだ
あいた席へもぐりこむ
窓側に座り 隣にカバンを置いた
もうすぐ日が変わる
父の日もおわり また普通の月曜日が始まる
その男性は明日も仕事なのだろうか
そんなことをぼんやりと考えながら
電車の揺れに意識は夢の入り口を漂う
家ではきっと 台所のテーブルの上にプレゼントでも
置いてあるんだろう
明日は元気にまた仕事に行くんだろう
その男性をうらやましく思いだした
きっと隣の車両で寝ている
真夜中を超えて電車は家へと走っている
慌てて改札を通ったものの電車も来ておらず
拍子抜けしたようにゆっくり歩く
蛍光灯の淡い青が冷たく静かにホームの黒いコンクリートを照らしている
真っ暗な海の中にポツンと浮かび上がる島のようだ
その島から暗闇へ線路が伸びている
規則正しいその模様は
日常が染みついた心に何かを決心するきっかけを
見つけださせてくれるかのようだ
細い鉄の柱が何本もホームの屋根を支えている
すでにシャッターを下ろしている小さな売店の向こうに
ベンチが背中あわせになっている
自動販売機の光が淡く届いている
へこんだビールの缶が転がっている
タバコの吸い殻がベンチの下でつぶれている
夜が深くなるほどに昼間のルールは置き去りにされる
一人の男性がそのベンチの端に座っている
寝ているようだ
スーツはしわがついている
ポケットには何かが入ってふくれている
ネクタイを緩めたシャツの襟がスーツの首のあたりからはみ出している
左手に抱えたカバン
仕事帰りだろう
この時間まで飲んでいたのか
もっと早くからここで寝てしまったのか
そのベンチの反対の端に腰かけた
下を向いて動かないその男性を横目で見
すぐに目を閉じて電車を待った
遠くで駅のアナウンスの声
誰かの笑い声
通りすぎる電車の音
ふと気がつくと
となりの男性はいなくなっていた
座っていたそこにはハンカチがあった
忘れていったのだろうか
と しばらくそのハンカチを眺めていると
そこにいた男性がもどってきた
「あ ここにあった」
ハンカチを拾い上げると
そのままスーツのポケットに突っ込んだ
「ふう」
その時 なぜかその男性と目があってしまった
軽く頭を下げた
忘れていったハンカチには気づいてなかった
それをまずはアピールしなくてはならなかった
「電車 遅れてるみたいですよ」
その男性は話しかけてきた
ホームには何人か所在無げに立っている人たち
「あ そうですか」
それ以上の返す言葉が見つからなかった
そういえば駅のアナウンス
聞いているようで聞いてなかったのか
特に焦る理由もないのだが
少し残念そうな顔で笑顔をつくった
「きょうは父の日なんだそうです」
突然 言われて 思わず頷いてしまった
「特に何もないんですけどね」
少し年上に見えるその男性は
苦笑いのあと ふっとホームの遠くに目をあげた
「もうすぐ日が変わりますね」
日曜日の夜 仕事帰りというのはそれはそれで大変だろう
「おわっちゃいますね」
その男性もそう言って またベンチに腰かけた
その後 しばらくの沈黙
再び目を閉じていたが
その男性が少し気になる
そっと見て見ると
また静かに目を閉じて居眠りをしているようだ
駅のアナウンスが何度も謝っている
電車が来るようだ
「やっときたか」
寝ているその男性に聞こえるように
すこし大きな声をだした
その男性は
ゆっくりと顔を上げ 小さくノビをした
「さて」
今度は忘れ物のないように自分の周りを見回し
「おつかれさまです」
その男性は軽く頭を下げて立ち上がった
電車の音がレールを伝って距離を教えてくれる
遠くから小さな光が細かく揺れながら近づいてくる
ドアの停止場所を選ぶ
その男性とは違う位置に歩く
電車からはそれほどの人は降りてこない
中もポツリポツリと座席に頭が見えるだけだ
あいた席へもぐりこむ
窓側に座り 隣にカバンを置いた
もうすぐ日が変わる
父の日もおわり また普通の月曜日が始まる
その男性は明日も仕事なのだろうか
そんなことをぼんやりと考えながら
電車の揺れに意識は夢の入り口を漂う
家ではきっと 台所のテーブルの上にプレゼントでも
置いてあるんだろう
明日は元気にまた仕事に行くんだろう
その男性をうらやましく思いだした
きっと隣の車両で寝ている
真夜中を超えて電車は家へと走っている
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