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2014年05月14日

Cal

Cal



あはは
計算通りになんていったことないから

彼はそう言った
遠くに何を探すでもなく
ただ近くを見ることが現実に近づきすぎることを
経験から知っているかのように
あるいは行き着く先の景色ではなく
自分との間にある空気の一枚をスライスしようと
視線を解放した

彼に初めて会ったのはもう二十年以上前のことだ
誰しもがそうだったように
まだ彼の背にあるパックの中にはありとあらゆるものが入っていた
でもそのすべてが軽量で
チカラにあふれる細い腕と脚は
遠い彼方にもすぐに行ける自信と希望に輝いていたのだ

何度 その中身を入れ替えたのだろう
要らないものはきっと捨ててきたはずだ
背中一杯に膨らんでいたものは
今 腰の上へと垂れ下がり
歩くのもつらそうだ

経験と学習
そんなことをよく聞いてきた
経験し学ぶことが
この世での幸せをつかむ道具の一つになると

これも経験と学習だろう
彼も知っていたと思う
いや それを実践してきていただろう
誰だってそうじゃないかと
すこし尖った言い訳をしたくもなるのが
普通なのだ
そうでなくてはいけない
そうしなければ 何もできなくなる
何も持てなくなるのだ

彼のパックには経験から選び抜かれた
道具たちが入っているに違いない
でも ひとつひとつが重たいのだ
その時よりもはるかに重いパックを引きずるように
肩にかけている

リセットはできるのかい?
彼は聞いてきた
答えることはできない
彼の出してきた無数の計算式を
そんなに簡単に評価することなどできない

リセットが必要なのかい?
そう言うのが精いっぱいだった

そして冒頭の彼の言葉だ

もう一度その問題を解きたいのか
他にある計算をはじめからしたいのか

彼は静かに微笑みながら視線を戻した
答えはいつも自分では出なかったよ
誰かが言ってくれたんだ
そりゃ間違いだ 合ってねえ とかね
こうやって計算してみろ とも言われたよ

でも結局ここまで来てしまった
簡単な計算もできなかったのか
今となってはわかんないけど
きっとそうなんだろうな

決して自嘲しているようには聞こえなかった
誰か他人の話をしているようだった

彼は自分を観察していた
理解していたんだろう
ということは

それが答えなのだ
今 たった今だけの答え

リセットじゃないな
それはオールクリアだ
リセットは
全てなくなるんだ
戻っては来ない
クリアは
ダメなんじゃなくて
何かやったんだよ きっと
オールクリアしてから次にしたい計算をするんだ

言葉の遊びのように話してしまった
彼は静かに聞いていた

どっちにしても
計算間違いには気をつけなきゃな

いつまでも答えなんてでやしない

どんな答えだったら良かったかも
実はよくわからない







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