2014年01月22日
1月22日の記事

寒い寒いと思い厚手のコートをはおり
首元を両手でしぼってからドアを開けた
拍子抜けするほど穏やかな空
確かに空気は冷たく固いが
光のスピードが今日だけゆっくりなんじゃないかと思うくらいに
頬にあたる陽が暖かい
「なんだ・・・」
一瞬すこし笑いが漏れそうになった
あまりに構えすぎてそこに立つ自分にだ
しかしまたすこし柔らかな気持ちがポッポッと炭酸水の泡のように
昇ってきた
最近のいらつきは少し度を越していたかもしれない
日課の散歩でも 枯れた灰色の木々の枝を見ることもなく
踏み出す足のすぐ先を覗くようにして歩いていた
定期的に頻繁に出現する不安や恐怖、あきらめ絶望と
それを打ち消すための扇動、鼓舞、肯定
能動的に自分の内から発することができたのは後者のみだ
だから 無防備な時はいつも打ちのめされる
そうならないために緊張する
いつくるかわからないそいつらのために怯える
そのうち 自分が何と戦っているのか
その意味も価値も消え
ただ 暗闇から飛んでくる銃弾から身を守ろうとするだけだ
だが
この時間に限っては握った拳を緩めることができた
ふとしたことでありがたい裏切りが自分をニュートラルにしてくれたようだった
風はたまにクルッと足元から背中 そして顔へまわり青い空に消えていく
見えるはずもないものがくっきりと感覚のなかで説明のできない形となった
遠くでサイレンの音が聞こえる工場の機械の打音がクリアに響いてくる
時折走りすぎる車の運転手と目があったりした
お互いに何かを求めているような気がした
きっと人に会うのもおっくうに感じていたのが 知らないうちに
自分から人を探すようになっているのだと
今の社会では仕方ないよな
すぐに結論をそこに導く
「仕方ないか」
そうだ その通りだ
変えられるものと変えられないものがあるとしたら
自分は変えられないもののことばかりを考えていたのかもしれない
今を過ぎていくものはすべてが真実になっていく
夢っていうのは一方通行の進む先にのみ存在する
頭の中で何度も回っていた言葉に酔う
でも今日の暖かい日差しは自分が変えたものではない
また頭の中でぐるぐると同じところを回り続ける
「なんも変わんないか」
そうだ昨日と何か変わったか
どう変わりたかったか 今のままではいけないのか
今が刻々と流れてくる未来はずっと同じなのか
知らないうちに駅のすぐ近くまで歩いてきていた
この寒さの中オレンジ色をした小さな花が路肩のすみで咲いている
その近くの塀の脇では完全に乾燥してこげ茶色になった茎が
あちらこちらを向いて痙攣しているかのように風に揺れていた
その花は他よりもここだけが少したくさんの日の光をもらっているようだった
理不尽なことが数えきれないほどある
身に降りかかることだとそれこそ息苦しいほどの怒りも覚えるものだ
ただ
変えられないものだけに一喜一憂していること
そしてその答えを永遠に気に入らないというだけなのだろうか
「あなたには変えられるものがあります」
「今の私をですか? 何をいまさら・・・無理ですよ」
「あなたに変えられるものは 気持ちと行動です」
「そんなの当たり前じゃないですか でも何も変わらないんですよ。
実際 何も変わらなかった いや変化は悪化したと言った方がいいかもしれない
すいません いや どうにもイライラしていたんですよ自分に」
駅のホームに入る前 喫煙所を探す
タバコが吸いたいわけではないが そこには目的を持った人たちが集まっているから
ひとりホームに立っていることさえ 自己嫌悪の原因になりそうなのだ
手早くタバコに火をつけて遠くを見ながら立っていた
自分の中の会話は続いていた
「そんな自分でもいわゆる意地、かっこよくいえばプライドっていうんでしょうね。
そんなものもあったような気がするんです。というかそれが変化を認めなかったんでしょうね」
「プライドは自分らしさの証明ですか?」
「ええ きっと人と同じかそれ以上 それを証明するため それだけで生きてきていたんでしょうね」
「でも 自分はそこまでの人間じゃなかったと」
「いわばカッコつけですよ。何をもって自分を表現したらいいのかもわからない」
「それがあなたの過去なんでしょうね。変えられないもの評価はもう変わらない。
あの時、、それが真実。・・・」
「見てもいない幻の宝を、さも自分が探し当て手柄のようにしていたか、
もう今の自分に疲れました」
「今からがありますよ」
「・・・」
「変えられるものは二つですよ。あなたの気持ちと行動です。」
「・・・」
静かに目を閉じた
瞬きをすると何かが溢れそうだった
「昨日も今日も明日も変わるもんじゃありません。あなたの決めたその名前が
それらを変わらないものにしているんです。
変わらなくたっていいじゃないですか 二つだけ変われば。
それで今から歩いて行けますよ。」
「誰なんだあなたは」
「あまり言いたくはなかったのですが、明日のあなたです。
ずっと待っていました。」
電車はもう少しで出発する。
タバコを灰皿の中に落とし 少し深く息を吸った
冷たい空気が胸の奥まで入ってきた。
陽はゆらりと射している
だが空気は冷たく固かった
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