2013年07月22日
Ride like
「あの夏はおもしろかったな」
あいつが言った
「あぁ」
俺も答えた
それだけでわかる
あの夏 たしかにもう二度とあんな夏は来ないだろう
いまだにあの夏をかたわらに携え生きているのは確かだ
あいつも俺も
午後の暑い太陽は知らない間に ゆっくりと傾き
あたりはすこし青を落としていた
通りの向こうから自転車を飛ばしてあいつは走ってくる
隣町に住むあいつは一時間近くかけてやってくるのだ
俺も同じく あいつの家に行くときは全力で自転車を走らせ
汗にまみれるのだ
「どうだ?」
来るなりあいつは言った
「おう」
オーケーの返事はたいていこうだ
あいつと俺は夏になる前 密かに盛り上がっていたことがあった
話の中でなんとなくの話題が熱を持ち勝手に燃え上ってしまったのである
勿論 あいつも俺も大いなる決意をし その日に向けて準備を始めたのだ
学校には友達はたくさんいた
大勢でたむろすることも多かった だがあいつとはそれ以外でも結構一緒にいた
未来を語るなんてことはしなかったが 夢は語った
未来というのは今のことだ 今こうしてここにいる俺たちのことだ
想像もしていなかった
夢はかなわなかった
たぶんあいつも
だからあの夏はいまでもでかい 遠くなっても一番最初に浮かんでくる
しばらくお互いにあのころの話はしなかった
それぞれ生きるためにおぼえなければいけないことが多くあったし
そして
あの頃と変わらず暑い夏
密かにたくらんだ夢はいまだに実行に移されてはいない
今となっては到底かなえられる夢ではない
あいつと俺はそれぞれに夢に乗らずに違う道を選んでしまったのだ
少し悔しいがそれが現実 こうやって思い出して
あの時選ばなかった道の前まで戻る
そして空想の中 そちらの道へ一歩踏み出してみる
あいつがそこに立っている
俺を待っていてくれたかのようだ
照れくさそうに目を細めている 俺も軽く手を挙げてこたえる
「どうだ?」
「おぅ」
夢のなか
夢にむかって歩き出してみた
巻き戻したあの時間に立つ自分があの道を俺たちを追いかけてくる
今を歩く俺たちにあの頃の俺たちが追いつくことはない
いい夢でよかったな
それだけでいい
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