2013年07月11日
団地群
このクソ暑い中配達で小高い山の中腹にある家に向かっていた
道も不案内 それもここ数年のいわゆる土地改良みたいなもので
幅も違えば古かった街並みがこぞって今風の壁とドアに変わり並んでいた
それまではまったく気づかなかったのだが国道を折れ
事前に言われた通りの道へ入り
薬局のある角を折れたところでふとあることを思い出した
ゆらゆらと熱気に揺れる細い道の両側にずっと昔からある団地が見える
ずっと昔 友達が住んでいた団地だ
ここだと思う
おぼろげなのは 後にも先にもその友達の家に行ったのは一度きりだし
その友達というのもそれほど仲が良かったのかどうかもわからない
なぜならば思い出したのは その家から帰るとき じゃあまたと言って別れてから
まったく浮かんだことのない出来事だったからだ
それでもまたなぜなんだろう
他に思うことはたくさんある 現にすぐ近くには今も付き合いのある古い友人がいるし
仕事場の同僚にもこのあたりに住まいを構えているやつもいるのだ
暑さのせいか 頭もぼんやりしてるからなあ
それもそのはず こんな季節に来たんだったな たぶん
と何年前かも適当なその思い出を思い出す作業は
ぼやけた意識をさらにぼやけさていたのだ
あの夏はこの数年ほど暑くもなく セミの声も道路わきの用水の流れも
下着姿とおぼしき お年寄りが今にもこわれそうな椅子をどこかからだしてきて
道端でクルマの通りをながめていることも
許せるくらいの暑さだったと思う
実は
その友人の名前も思い出せない
これは重症だ 何してたやつだったか どこで再開したのか 何を話せば
遊びにいくくらい盛り上がるのか
まことに不思議な出来事だ
もしかして それは夢だったのか
確かにあったと確信さえもゆらいできた
ただ その家では 初めて会った人たちもいて たぶん焼肉かなんかをみんなで食べた
違いない 煙で充満した部屋で何人かの声がした 今頭の中ではそのイメージが浮かんできている
でも みんな煙の中にいて顔は何も見えない
やっぱり思い出せない
その時間そこにいたことだけを覚えているのだ
配達先の家はその団地のすぐ先だ
四つ角に来て左右を確認した すっと友人たちはどこかへ消えていった
団地だけはすすけたコンクリートの肌をじっと日に当てて耐えているようだ
きっともっと明るい色だったんだろう
緑の木々は二階の窓に届きそうだ 当時はひょろっとした木だったのだろう
今では登ることもできそうだ 道との境にはフェンスが続く
気の利いたデザインなんてありもしない でも何十年も前の若い夫婦と小さな子供たちの
優しげな笑顔と声が聞こえてくるようだ
幼いころ うちの近くにも団地ができた
自分には友達の増える 新しいお城だった
それがたまたまここを訪れたことで 思いもせずよみがえってくる
次に思い出すのは またここを通るときぐらいだろうな
みんなは何してるのかな 元気なのか
そもそもそいつらは自分のことを覚えてもいないんじゃないか
まあ 忘れずにいるから またいつか
それが来た道で何かをもたらしたのかどうかは何ともいえない
でも無駄だなんて決していわない
頭のなかの引き出しをひとつ開けてまた閉じた瞬間だった
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