2013年06月26日
梅雨に
風の便りっていうにはとても偶然だけど
あいつが遠い地で逝ってたって話を聞いたよ
少し自我の現れたころ知り合ったやつ
あまり印象深いわけではないけど それでも心の中では
残ってた
どこに向かって行ったのか 追っかけてたわけではなかったけど
何年かぶりに連絡した時を覚えているんだ
自分の暮らしの中では全く接点のない時間がしばらくあって
あれはおんぼろの車に乗り始めたころだから それこそ免許とれる年だったんだろう
ある日 なんとなく電話してみたんだ
それまでの空白が一瞬にしてなくなったかのようなあいつの声
不思議な感覚
それほど仲良かったっけ と戸惑うほどの明るい声だったな
どこかで同じ時間を探し出そうとしたけどずっと見つけられなかった
でも思い出して電話したんだ
人の魅力というものはどこにあるんだろう
絵画のように瞬間が自分に感情を湧き立たせるものや
仕事の道具みたいに使い込んでわかっていくもの
どちらにも完全にあてはまらないあいつはなんだった
ちょっとした憧れは小さなときには必ずひとつやふたつあるもので
テレビや映画の中の主人公にはどうしても重ねてみたい衝動があった
きっとそれに似た感情のような気がするな
何年かぶりに顔を合わせたあいつはとてもおとなになっていた
その頃まだ社会に出たばかりの自分にとっては
まったく未知の世界を知っている顔だった
同じ時間を過ごしてきてもこれほど違うのかとなんか恥ずかしい気持ちだったよ
目いっぱい背伸びしても 若いときの経験の差は
すぐに見破られてしまう
そんな本質を見抜かれているような気がした
そんなこともあまり気にしないように空いた時間を埋めようとしてくれていたんだな
ただそれさえもあいつにはかなわなくなってるなと まるで後輩のような自分がいたよ
そんな時間はたかだか数時間の出来事
年を重ねるごとに熟成されて凝縮されていくワインやウイスキーのように
ほんのすこしの瞬きに姿を変えていったんだ
誰に語るでもない思い出 自分から引き出すことのないどこかにしまいこんでしまったもの
三十年近くたって どこにあるかもわからない大切の順番が後ろの方にいってしまったもの
突然 聞かされて探す心の波立ち
知ってるやつはたくさんいるけど 大きな事件にもならない話題
少しさびしい気持ちと とても遠くの地で降る雨のような匂いも音も感じないあいつの話
ありがとうともごめんとも違う
あいつのこと何も知らなかったとわかった現実と 背伸びばっかの痩せ細ったあの頃のゆめ
ずっと先を走って行ったから ゴールのテープも早くきったのか
お互いその時間の差だけで いつかはまた次のレースが始まるんだ
その時には あいつはますます先にいっちゃってるんだろうな
二度と追いつくことはできないだろうね
あのひとときだけ唯一同じカーブを曲がっていたんだ
またどこかの棚に置き忘れそうな出来事
生まれ変わったらまたこの街に戻ってくるのかい
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