2013年06月25日
found

たくさんの人がいて
始めて動くものがある
さて どうしたものか?
ええ このままだと今度の祭りの準備ができなくなってしまいますよ
ああ そうだな
(と 窓の外を眺める。港から続く青い海がゆるやかに光っている)
このところの凪続きで海に出られない彼らはあせっている
このままじゃ腕もなまってしまいますよ
あいつら昼間からバーで飲んでやがって
まあ そういうな
みんな つらいんだ 風が吹けば すぐ戻ってくるさ
数年前からこの地方では まともな風が吹かず 毎年 海からの恵みは減っている
かといって台地は痩せていて 多くの作物は期待できない
街は 少しずつすさんでいった
勿論 そこにいる人も同じだ 毎日 どこかで争う声が聞こえ
犬や猫たちは 所在無げに家の軒先で静かにしている
なんとかならんのか
街を仕切る男が言った 今でいえば村長や市長みたいなものだ
はい 実は・・・
この街の海に関することにかけては 誰からも一目置かれる男が言った
なんだ 言ってみてくれ
口ごもる男に 促す
あの 新しい船をつくりましょう
なに? 本気でそんなこと言ってるのか 風も吹かないのに
新しい船なんて・・ それにそんな資金 いったいどこにあるんだ
はい たしかにお金はありません しかし 凪でも走る船さえあれば
あの水平線の向こうまで 行って漁ができるんです
それしか手はないんですよ それに・・・
厳しい顔をする男
それに?
まだ何かあるのかと 呆れ顔の長
まったく新しい形の船を考えたんです
これなら 必ず 風を受けてどこまでも行けると信じています
少し自信ありげな男
ほほー そんな船いつ考えたんだい? もしかしてうちの村ぐらい大きな
帆をはるとか 言うんじゃないだろうな ははは
あまり 現実的になれない長
いえ 今より少し大きくなるくらいです それに 新しく作るといっても
今ある船を使うんです だから それほど費用は・・・
は? どんな形なんだ それは 今ある船を作り変えても
それほどのものができるとは思えんがね
あの 二艘をひとつにするんです 横に二艘並べて
男は堰が切れたように話し出した
船と船をマストで繋ぐんです そして中央に大きなマストを立てます
二艘で支えますから安定性もあり マストも一艘より大きくできます
風をより多く捕まえるということは スピードが出るんです
実は この前 うちの小さな船で試しました
マストは大きなものが使えなかったけど とてもよくいってくれたんです
たぶん 船があまり傾かないのでマストがいつも垂直に近いからだと
思います とても効率がいいんです・・・・・・・・
あまり 続けて話すので しばらく黙って聞いていた長は
わかったわかった 少し待て
しばらく また窓の外を見ていたが
いけるかもしれんな 頭の中で走らせてみたよ
今 出来ることをやってみようじゃないか
動かないより どこかを目指して動く
海に道はないが どこから風が吹いたって 目指すところへいける
長は そんなことを考えていた
不漁という道に入り込んで それに縛られていたよ
おれたちは海で生きているんだ
沖へ出ることだけは忘れてはいけないんだ
はい
男は 少し落ち着いて 静かにはっきりと返事をした
次の日から 街の色が変わった
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