2012年01月28日
一握の雪
ある夜
仕事を終えて いつもの店へ
少しばかり 冷える気がしたが
気にすることもなく
店のドアを開ける
もわっ とした暖かい空気が
タバコの煙と一緒に
冷たい顔や耳にまとわりついてくる
カウンターには
いつもの顔
みな ひとりでやってくる
こいつら 毎日 よく来るなあ
と お互い思ったようで
にやりと笑い 軽く挨拶をかわす
店の中は ダークな木材を使った
オールドアメリカンを意識したつくりだ
なにか音楽は流れているが
よくわからないジャンル
それより それぞれが話す声と
それに加わるためか
いつまでたっても
店の趣向を理解できないでいた
これが実際のところ
今夜は 少し冷える
きょうは空いてるな
そう思いながら
時計を見ると いい時間
ありがとうと
ドアを開けた瞬間
夜明けのような
青白い世界が目の前に
真冬でも雪なんて縁遠いこの街
でも
そう 雪が積もっていた
何年かの雪は
不思議と笑顔にしてくれた
すべてがちゃらになったよう
帰り道
線路の柵に積もる雪を
ぎゅっとつかんだ
さらさらから
じゅっとしみて水になる
冷たい手が
さらに冷たくなって
感覚がなくなっていった
この話はフィクションです